「大丈夫です。何かあったらすぐ電話しちゃうから。」

そう言って可那が笑うと「いつでも話し聞くよ。プレス発表会は2日間とも俺も出るから。」と言って友利は真面目な表情に戻った。

「そうだ、プレス発表会なんだけど1日目の夜、本部の親睦会もあるし翌日に備えてホテル取ってくれって言われてるんだ。だいたいこのエリアで予算内でこの辺りなんだけど、どこがいい?」

友利は片手でノートPCを掴むと、くるりと可那の方に向けた。
画面に映し出されているのは都内のホテル一覧だった。
手渡されたマウスで画面をスクロールすると、ホテルの外観や部屋の画像が次々とチェックできた。
清潔感のある部屋にベッドがツインで並んでいる画像、クイーンサイズのベッドのある夜景の綺麗な部屋、それらを見ていたら急に可那は思いついてしまった。

「親睦会って…、友利さんも出られますか?」

画面から目線を上げて、友利の顔をじっと見つめる。
友利は、すっかり部長の顔に戻って、無表情で言った。

「うん、今回は各エリアの部長職は全員参加なんだ。船貸し切ってやるらしいよ。すごいよね。」

「へぇ…。そっか、それなら友利さんも宿泊しませんか?せっかくだから同じホテルに。」

可那は出来る限り爽やかに聞こえるように気をつけながら、息継ぎをせず一気に言った。
もうあと1ヶ月しか一緒に居られないのなら何でも言える、そんな気持ちだった。
それに、今、言わなければ後はもうないかもしれない、せっかくの2人きりなのだ。

「え?南と?」

友利の丸い目が大きく広がる。
彼の心から驚いた時のこの表情が、可愛くて可那は大好きだ。

「うん。」

同じ部屋に泊まろう、と言ってるわけじゃないのだから断る理由なんてどこにもないはずだ。

「だって最後だもん。近くに居たいなぁ、なんて。」

可那はわざと悪戯っぽく笑ってみせる。
なるべく冗談に聞こえるようにわざと明るい声を出す。

「このホテルなんて夜景絶対綺麗ですよ。見てくださいよ、この立地!ね、ここにしましょ。」

ノートPCの画面を友利の方に向け、ずずずっと押しやりながら可那は思い切り明るく提案する。

「いや、それは南はどこに泊まってもいいけど…、俺は朝の準備にも参加しないし宿泊するのは…どうだろう…。」

話しながら友利の口元がゆっくりと緩んでいくのを可那は敏感に感じていた。
これは後ひと押しだ、と思い息を吸う。

「でも親睦会で絶対夜遅くなっちゃうし、泊まっちゃった方が疲れ癒せますよ。夜道も不安だし、友利さんと一緒に帰りたいな。朝も一緒に食べたいなぁ。」

小さく口を尖らせて上目使いで友利を見つめる。
友利の口元が一層緩んでいくのが面白いほどよく分かる。

「だめ?」

「うー…、分かった。俺もここに泊まるよ。2部屋予約するから。」

「やった!」

可那は小さくガッツポーズを作って見せた。

「誤解されても困るから誰にも言うなよ。」

PC画面に視線を落とし、キーボードを弄りながら友利がボソッと呟いた。
何言ってるの、私たちキスした仲ですよ、と言いたいのを堪えながら可那は「はーい。」と可愛く答えた。