ーーーある日の仕事帰り。
久しぶりに矢吹先輩に連絡を取った私は、先輩の勤務先であるホテルのロビーにいた。
「朱里ちゃんから会いたいなんてどうしたの?俺が恋しくなった?」
「いえ、そうじゃないですけど…忙しいのにすみません」
「別に構わないけど、いくら可愛い朱里ちゃんの頼みでも勤務先のホテルでそんなことしたらクビになっちゃうからなぁ」
「先輩、お願いですから人の話を聞いてくださいよ…」
先輩は今をときめく人気パティシエ。
雑誌に取り上げられることもあり、すっかり有名人だ。
もちろんそれもビックリなんだけど、それよりもっとビックリしたことがある。
「まさか今さら俺に乗りかえる気?さすがに不倫はマズイんだけど…週刊誌に載っちゃうかもしれないし何より小春に蹴り入れられるし」
「だから違いますってば!」
そう。先輩の長年の想いが小春さんに届き、二人は二年前に結婚したのだ。
出席した結婚式での二人の幸せそうな顔が、昨日のことのように思い出せる。
それくらい素敵で感動的な結婚式だった。


