昨日抱きしめていた携帯は、朝目が覚めると床に転がり落ちていた。

起きてすぐに開いた画面には、電話やメールを知らせる表示なんてなくて…

朝からため息が漏れた。




「えっ?デート?」

「うん。今週末は家庭教師も居酒屋も休みにしたから久々にデートしようよ」



今日は憂鬱な気分でスタートしたはずなのに、朝から眩しすぎるたっくんの笑顔とその言葉一つで信じられないほど気分が晴れていく。

もしかして私ってすごく単純…?




「えっと…そっか。うん、デートしよう」




どうしよう、すっっっっごく嬉しい!

だけど、あからさまに喜んでしまうと、いつも寂しいって思ってること気付かれちゃう。

そう思い、緩んだ頬を隠しながら嬉しくて跳び跳ねたい気持ちもグッと抑えて、いつもの通学路を歩く。

そんな私を見て何故かたっくんはクスクス笑ってる。




「知ってた?朱里は昔から嬉しいことがあると髪を耳に掛ける癖があるってこと」

「えっ!?嘘…」




全く無意識だったけれど、確かに私の髪は耳にしっかりと掛かっている。

自分にそんな癖があること全然知らなかった…

私が知らない私のことを、たっくんは知っててくれる。それがこんなにも嬉しいなんて。