テントから出ると、同じタイミングで男子テントが開く。携帯を弄りながらそこから出てきたのは、たっくんだった。
「朱里?ちょうどよかった。今メールしようとしてたとこ」
「たっくん…」
話したいと思っていたはずなのに…
実際にたっくんの顔を見ると言葉が出てこない。
そのまま何も言わない私を、たっくんはただ優しく抱きしめてくれる。
その温もりが心地よくて…涙が流れた。
「何も言わなくていいよ」
「え…?」
「言葉はいらない。ただ…朱里のそばにいたい」
たっくんは涙を流す私の背中を擦ってくれる。
小さな子を安心させるみたいに頭を撫でてくれる。
そんなたっくんを大人だと思った。
好きな人と一緒にいられることは当たり前じゃない。
好きな人が自分を好きでいてくれることは、すごいことなんだ。
恋には酸いも甘いもあって、
喜びがあれば悲しみもあって、
自分が幸せを感じてる時、
切なさを感じてる人がいるかもしれなくて。
そうやって誰かを愛し、誰かに愛され、
時に誰かを傷付けながら人は大人になるんだと今日初めて知った。


