「……もしも、」
「うん?」
ポツリ、マサトが聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟けば、俺は聞き逃さないようにドアに耳を寄せる。
「もしも…“彼”を裏切った親友があなたみたいな人だったら…毎日楽しかっただろうな」
「今からでも遅くないよ。これから“彼”の毎日はすっごく楽しくなるんだから」
「……うん」
ドア越しに聞こえるその声は少しだけ震えていて…
マサトが一人で抱えてきた苦しみを、やっと吐き出せた証なんだと思った。
「バイト代断ったって母さんに聞いた。お金…欲しくないの?」
「うん。友達と向き合うのにお金なんて必要ないから」
「…お金につられた先生とは違う」
「お金より大切なもの、その先生は知らないのかもね」
俺は知ってるよ。お金じゃ買えない大切なもの。
お金なんていらないんだ。
そんなのいらないから…マサトの全部をさらけ出してほしい。
「何があっても逃げずにぶつかってきてくれて、僕と向き合ってくれる。もしも先生が…あなたみたいな人だったら。僕はきっとこんな風にならなかったっ…」
嗚咽まじりになりながらも一生懸命絞り出したマサトの言葉に、心が震えたような気がした。
朱里、俺も見つけたよ。
たった今、心が震えたこの瞬間。
俺も将来の夢……見つけた。
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