ノートを閉じた時、俺の心にあった感情は喜びでも悲しみでもなかった。
この気持ちの名前を知らない。言葉で言い表すことなんてできない。それが、今の感情の全て。
マサトの傷を知った今の俺にできることは、同情や慰めなんかじゃない。
「辛かったね、苦しかったね」なんてそんな言葉、今のマサトは望んでないだろう。
「過去の嫌なことは忘れて今を楽しもう」そんな明るい言葉も望んではいないはずだ。
言葉はなくてもいいよね。
俺とマサトは3ヶ月、言葉を交わすよりノートで会話する方が多かったけど、それでも確かに絆は深まったから。
だから俺は同情なんてしないし、慰めることもしない。
コンコンッ───
「マサト、貸した漫画どうだった?」
「…うん。まぁまぁ」
ドア越しの会話はノートに書いてあることとは全く関係のないこと。
これが同情や慰めの言葉だったら…きっと言葉を返してくれなかっただろう。
「そっか。もしその続き気になるなら今度うちにおいでよ」
「…」
「シュウと一緒に来てもいいし」
「…」
「明日でもいいし、5年後でもいいから」
「…」
「マサトのタイミングでね」
「……分かった。そのうち」
「うん。いつでもどうぞ」
焦らなくてもいいんだ。
だって大切なのは、やってみようって思えたマサトの気持ちなんだから。


