ありふれた恋。


「お待たせしました」


ドアが開く音がした。


「こんにちは」


リビングまで届いた高い声は女性のものだ。


落ち着け、落ち着け。



女性が訪ねてきたからといってなんだというんだ。部屋にあげているわけでもないのだから、気にしちゃ駄目だ。



「突然、訪ねて来てしまってごめんなさい。これを渡したくて」

「こちらこそ、わざわざすみません」



嫌でも耳に入ってくる会話。


そっと廊下の方を見ると、そこには柔らかく笑うアノ人がいた。


誕生日の日に、駅でバッタリ会った……陽介と同じ大学生だと思われる女の人。



嫌だな。

嫉妬するほどのことでもないのに薄汚れた感情が見え隠れする。



ソファに座り、小さく溜め息をついた。



どうして陽介の家を知っているのだろう?


以前、連れてきたのかな?



私のいない間に、2人で――




「沙樹、」



顔を上げると、陽介が隣りに座った。



「あれ?もう帰っちゃったの」

「うん」

「上がってもらえば良かった、のに」



心にもないことを喋る私は、醜い感情に負けている。

陽介は足を組み直し、いつもの真っ直ぐな瞳で私を見た。


「彼女はおまえだろ?今訪ねてきたのは、ただの友達。ちなみにプリントを届けてくれただけ。家に上げろだって?せっかくのおまえといれる時間に、邪魔くさいだろ」


「……ごめん」



ゆっくり息を吐き出した。



「綺麗な人だったから、つい……」



つい、嫉妬しました。