ありふれた恋。


私だけ、日本に残ろうかと思った。

陽介や祐太郎ともう少し同じ時を共有していたかったから。



それでも父の単身赴任先に母も行こうと決意したのは、私のためであると簡単に予想はついたから、一緒に行くことにした。



家族らしくない私たちはどこかでやり直さなければいけない。

そして今ならやり直しが利く。
異国で父と母に囲まれた生活なんて、今はまだ想像できないけれど。

上手くいくような気がするんだ。



「味見して」


出来上がったばかりの特製スープをスプーンで掬うと、陽介はそれを私の口元に移動させた。



「ほら、」



どうやら飲ませてくれるらしい……?



って、ちょっと待ってよ。



「自分で飲めるよ」



そんな恥ずかしいことできません。



「いいから、口開けろ」



強引な言い方で指図され、従ってしまう私が一番いけない。



大好きな陽介の甘い行動に逆らうなんて、一生かけてもできないだろう。


「美味しい」

「だろ、」

「隠し味になんか入れたの?」

「ああ。教えないけどな」

「……ケチ」



陽介はふて腐れる私には取り合わずにスープの火を止めた。



と、同時にインターフォンが鳴った。



「誰か来たな」



素早い動作でエプロンを外した陽介は、受話器を取る。



「はい……、あ、ちょっと待っていて下さい」



来客が誰かは分からないが、陽介が敬語を遣うなんて、なんかおかしな感じだ。



「ちょっと待ってて」



受話器を置き、私にそう言い残した陽介は玄関に向かった。