「お邪魔します」
最近はまだ明るい内に陽介の家を訪ねることが多くなった。
「おかえり」
既に帰宅していた陽介はお米を研いでいた。
「あ、私がやるよ」
「いいよ。適当に座ってろ」
家事全般をこなし、料理の腕が上。
女として、彼女として悔しい。
「陽介、」
キッチンに立つ彼の隣りに移動する。1秒でも長く側にいたい。
「ああ」
付き合い出して1ヶ月。
クールなのは変わりません。
「好き」
あの告白以来、私は恥ずかしいことも躊躇わずに言えるようになりましたーー言葉にすることの大切さを学んだから。
「おまえさ、そういうことばっか言うな」
蛇口から流れる水の音が消える。
手を拭いて私の頭を軽く叩いた。
「だって本当のことだよ?」
「俺にも理性の問題とか、色々あるわけ」
「理性ですか」
「そう。おまえにずっと床で寝て貰ってたのも、その理由のひとつ」
どうやら陽介は私の知らない間に、理性というものと戦っていたらしい。
「冷蔵庫から、卵とって」
「あ、はい」
「ここに割って」
一緒に料理をすることは楽しい。陽介の味の好みもだんだん分かってきた。
「私、日本を離れている間に料理の腕を上げとくから」
「楽しみにしとく」
優しい声で返事をされたら頑張らないわけにはいかない。
「もしかしたら和食より洋食の方が得意になっちゃうかも」
「それじゃぁ、俺が和食の腕を磨けば良いな」
「陽介は良い旦那さんになる……」
ーーしまった!
人事のように軽く告げた言葉は、
考えてみたら恥ずかし過ぎる台詞だ。
「あ、ごめん」
卵をかき混ぜる陽介の箸が止まったので、気まずい思いで謝る。
「俺が良い旦那かよ?笑える」
けれど特に気を悪くした様子もない反応に、ほっとした。


