メニューに載せられた写真はどれも美味しそうでなにを頼もうかと慎重になる。
こんな素敵なお店に、
陽介と来ることはもう無いかもしれない。
「相変わらず遅ぇな」
さっさと決めたらしい陽介は頬杖をついて、真剣に悩む私は眺めている。
「だって、どれも食べたくて」
「また食べに来れば良いだろ」
面倒臭そうに陽介は言った。
その"また"が、来ることを素直に期待できるほど、純粋じゃない。
「これにしようかな」
「ああ」
陽介が店員を呼んだ。
ファーストフードより明らかに素敵なお店。
彩り鮮やかなメニュー。
それでも祐太郎と食べるハンバーガーを恋しく思うのは、私がこの場所に相応しくない証だ。
「あの映画さ、」
唐突に映画の話しがぶり返される。
「ヒロインは何度も遠回りしてたじゃんか」
「うん」
私にはそのヒロインの気持ちがよく分かるけどね。
好きなものを、ーー好き。
そう告白することがどれだけ大変か陽介には想像できるかな。
「遠回りして実る恋も良いと思うよ。少し前の俺も同じようにそう思ってたし」
「……」
――同じようにように思ってた?
「でも俺はそこまで気が長くないみたい。もう待てない。好きなら触れたいし、とにかく独占したい」
「そ、そう、なんだ…」
陽介の口から初めて聞いた、恋愛に対する想いに胸が締め付けられた。
「それに最近、心が離れていきそうで焦ってる」
「陽介でも焦るんだ」
嫌味でも言わなければ冷静を保てない。
これって、間違いなく失恋だよね?
「お待たせ致しました」
陽介が頼んだ魚介のパスタと、私の注文したラザニアが同時に運ばれてきた。
「美味しそう」
食欲をそそる香りを目の前にして胃がキリキリと痛み出す。
「食いながら、聞いて欲しいことがあるんだ」
そう言う陽介はフォークを持とうとしないので、私も手を止めた。
「なに?」
自分でも驚く程、冷たい声だった。
「俺、……」
なに?その好きな子の話?
陽介の言葉と同時に、機械音が響いた。
初期設定のままであろうこの音楽は、陽介の携帯から発せられたものだろう。
「悪い」
そう言って陽介は携帯を持って表に出て行ってしまった。
取り残された私は目の前に置かれた湯気の立つ料理に視線を向ける。
美味しそう、だけど。
これが陽介と食べる最後のディナーになるのなら、不味い方が良い。
ラザニアが失恋の味、なんて笑えるけど。
独占したいほど、好き女の子がいるなら。
ずけずけと私が陽介の隣りにいるのはおかしい。
大好きな陽介の恋路を邪魔するような女にはなりたくないし。
なにも言わずに離れることはせず、ちゃんと理由を伝えて離れようか。
――あなたが好きで、それ故に離れる決意をした。
そう告げたらあなたはどんな顔をするのかな。


