「もし仮に、私が彼女に立候補したらどうする?」

仮定の話しだとしても、勇気のいる質問だった。


「時と場合による」

「なにそれ」



口を尖らせて、陽介を追い抜かす。
曖昧な返事しかくれない陽介も陽介だが、素直に思いを口にできない私が一番駄目だ。



「もー、帰る」

「なんで?」



なんで、って。
まだ私に付き合ってくれるの?


「飯でも食おうぜ」



すっかり日は落ちてしまったが、生温かい風が吹く。



「陽介の奢り?」

「ばーか」



こんなやり取りをしている最中でさえ何度も何度も心の中で呟く。



陽介、大好き。


付き合って下さい。と、そのまま口に出せたら良いのに。




「ここにするか」



見るからに高級そうな雰囲気を漂わせたイタリアの看板を指された。
最近は祐太郎とファーストフード店にしか出入りしていない私にはハードルの高いお店だ。



「高そうだよ」


お財布の中身を思い浮かべる。


「俺の奢りなら良いだろ」


「……よく来るの?」


「ああ?」


「友達とこういう高そうなお店、頻繁に来るの?」


「早く入るぞ」



扉を開け、背中を押された。


静かな音楽の流れる店内に足を踏み入れれば、陽介はさっさと窓際の席に座った。


全然納得がいかない。