「1年前かな?まだ俺たちが出会ったばかりの頃。訪ねてきたんだよ、おまえの母さんが」

「え…?」

「でもこれは俺の口から聞くより直接聞いた方がいいと思う。この話しはもうおしまい」



陽介がおしまいだと言えば、そこで終わりにする。

それがいつもの私だけれど今日は引き下がりたくなかった。


「母に聞いてもまともに取り合ってくれるとは思えないから、教えて……」


「一度、崩れてしまった関係を取り戻すのは難しいかもしんないけど。おまえなら、大丈夫だよ」


陽介が、笑った。

見とれてしまうほど優しく、優しく微笑んだ。

久々に笑ってくれた。


「なっ?一度、ちゃんと話してみな?」

「うん」


そんな顔で言われたら、肯定の返事以外に返せるはずがないじゃないか。

ズルいよ、陽介。


「ほら、さっさと行くぞ」

「ね、陽介」


切り替えが早い陽介はまた元の無表情に戻っていた。


「もう一度、笑って?」

「楽しくないのに、笑えるかよ」

「それって。私といるの、つまらないってこと?」

「まぁな」

「……」

「冗談だ」



冗談に聞こえない。
家族の問題すら一人で解決できない臆病者と一緒にいて…… 楽しいのだろうか。

それ共、野良犬をつい拾ってきてしまう感情と同じ?


捨てられないし、突き放せないから仕方なく一緒にいるのだろうか。



「そんな顔をすんな」

「どんな顔?」

「寂しそうな顔」



陽介に私は、飼い主に置いていかれた子犬のように映っているのかな。