先程までひとりで何処に行こうかと悩んでいたのに、陽介と出掛けられる急展開を迎えるなんて。
今日もいい日だ。
着替えるために私の家に戻ってから、映画館に向かうことになった。
玄関にすら足を踏み入れようとしない陽介を外で、待たせたまま急いで着替える。
この暑い中、待たせているなんて申し訳ない。
それでも軽く化粧をしてしまうのは、女心というもの。
この間買ったばかりのワンピースを来て、外に出ると、
嫌な光景が目に入った。
「あら、あの子のお友達?」
「初めまして。辻合陽介と申します」
初対面の相手に気を遣っているのか、陽介はニコリと笑った。
私には向けられたことのない社交辞令の笑みだ。
「行こう、陽介」
2人の会話に割り込み、陽介の腕を取る。
「どこ行くの?」
母の言葉を無視し歩き出そうとすれば、陽介は私の手を払った。
「あの、」
そして陽介は母の方に向き直る。
「僕の勘違いでなければの話なのですが。以前、うちに訪ねて来ましたよね?」
「……覚えていましたか」
「ええ」
なんの話しだろうか。
「娘を宜しくお願い致します」
「はい」
頭を下げた母に、うなづいた陽介。
いったい、どうなっているのだろう。
なにより驚いたのは母の口から私を、"娘"と呼んだことだ。
「行こうか」
「どういうこと?」
さっさと歩き出した陽介を追うと、後ろから「いってらっしゃい」と声を掛けられる。
初めてのことに反射的に振り返り、
目が合った母に軽く会釈する。
本当にぎこちない親子だ。
「おまえさ、愛されてないと思い込んでるだけでさ。本当は大切にされてるんだよ」
知ったような口調の陽介。
私の頭にはハテナマークが並んでいた。


