ありふれた恋。


「水分がなくなるまで、たくさん泣けば良いじゃんか」



まるで私が今まで、泣くことを我慢していたのを知っていたかのような言い方だ。


自転車を道の脇に止めた陽介は、私の頬に触れた。


「胸、貸そうか?」


ひんやりとした手で乱暴に涙を拭われる。


「…うん」


消え入りそうな弱々しい声で返事をすれば、
後頭部に手を回されて広い胸に誘導された。

陽介に包まれて、産まれたての赤ん坊のように泣き続けた。


この人の前では強くあろうとしてきた。

泣いていいとあなたが言うなら、
もう我慢はしない。







すっかり日は落ちて、肌寒くなってきた。



私はというと泣きつかれ、おまけに声も枯れた。



「私、陽介の前では泣いちゃ駄目だと思ってたの」

「なんで?」


「陽介と私はお互いが笑うために一緒にいるのだから、弱いとこなんて見せちゃ駄目だと思ってて」



陽介の胸に顔を押し付けたまま、本心をさらけ出した。

初めて、負の感情を伝えることができた。