ありふれた恋。


「早く寝れば?明日も学校だろう」

「そうだね」


ピンク色のマグカップをそっと食器棚に戻し、贈り主の元へいく。


「陽介が選んでくれたの?」

「他に誰がいるんだ」

「ありが…」

「割るなよ」



頑なにお礼は言わせてもらえないようだ。

「うん。大切にするよ」

「ああ」



陽介が身体を壁際によせ、スペースを開けてくれたのでベッドの上に座る。


「本当に良いの?狭くない?」

いざ一緒に寝るとなると、緊張してしまい横になることさえ躊躇う。


隣で寝たいと、言い出したのは私なのにね。



「つべこべ言わず、さっさと寝ろよ」


決心がつかない私の腕を陽介が引いた。

そしてそのままベッドに倒れこむ。


「もう起こすなよ」


そう忠告した陽介は私の腕を離すことはなく、ひんやりとした手に掴まれたままになる。


できればこのまま、離さないで下さいと、
神様を信じない私が願うのはおかしいことか。


こんなことなら神様を信じておけば良かった。



「おやすみ」

そう最後の挨拶をしても陽介の返事はなかった。



代わりに腕を掴む力が一瞬だけ強くなった。