ありふれた恋。


「喉が渇いた」

食器を洗い終えたと同時に、陽介が言った。
冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出し、そのままベッドへと運ぶ。



「コップに入れろよ。2番目の棚にあるから」

「あ、ごめん」


いつもペットボトルのまま直接飲むのに。いつからコップに注ぐようなマメな男になったのだろう。


言われた通り食器棚に目をやり、



――違和感を覚えた。





いつも陽介が愛用している黒いマグカップの横に、見慣れぬものがある。


「新しいの買ったんだ」


モノクロで統一された陽介の部屋では珍しい、ピンク色のマグカップに首を傾げる。



「それ、おまえの」

「え?」


もう夢を見ているのだろうか。
都合のいい夢を作ってしまっているのだろうか。



いやそれ以前に、

私は陽介と出会ったという素敵な夢を、


長い長い夢を見続けているのではないか。




目が覚めた時、全てが自分の作り出した妄想だと気付くのだとしたら、

この夢から一生、覚めないままでいたい。