「……そうですね、思い出していただけたらと……」
「……つまらない答えね…」
当たり障りのない返事に、その顔を横目に窺う。
リュートは何も言わずに、もう一度口元に笑みだけを浮かべた。
「……思い出したくもないわ、こんな薔薇なんて……」
何も答えてはくれないリュートを憎らしくも感じるようで、そう口にすると、
「……なぜです、お嬢様……」
と、リュートは声を落とした。
「……あなたが、庭師と一緒に薔薇園を育てたのを知ってるからよ。……私がまだ幼かった頃は、庭師のサムとあなたとでここをよく駆け回って遊んだわね……」
庭に視線を移すと、あの頃の恋なんて知る由もなかった幼い自分が、リュートと楽しげに追いかけっこをしているのが見えるようだった……。
「……そうでございますね」
相変わらず感情を押し殺したように応えて、けれどあの頃に思いを馳せるかのような優しげな眼差しを、リュートもつと庭へ走らせたーー。