「……だけど、お兄様がいらっしゃるって……」

どうでもいいようなことを話して、目の前の現実から逃れようとする私に、

「ええ、兄はいますが、この城は私のものです。ここは、バカンスを過ごすための城で、兄が城主となる城は他にあるのでね」

キースが、そんな気持ちなどお構いなしに自慢気に喋る。

「……そう」

海辺を見下ろす城は確かに美しかったけれど、それを彼が継承するからと言われても、私の心には何の感慨も湧いてこなかった。

……リュートがいなければ、どんなに綺麗な風景も色褪せて見える……。

そう思って、目を伏せると、

「また、あの執事のことを考えているのですね? まったく奴はどこまで、あなたの心を浸食しているんだか……」

キースが忌々しそうにも口にする。