彼の持っていたワイングラスをつかんで、一息に飲み干そうとするのを、

「いけません、そのようなことをしては……」

と、止められる。

「……どなたの目があるのか、わからないのですよ…使用人の私が飲んでいたグラスに、お嬢様が口を付けられるなど……」

「……そんなの、なんだっていうのよ…私は、そのあなたのグラスから飲みたいの」

もう一度飲もうとするのを、

「……お嬢様!」と、少し強めにたしなめられる。

「……こんなところを見られれば、どんなお噂が立つか……どうか行き過ぎた行為は、お控えください」

「……行き過ぎた行為、ね…」

呟いて、唇を再び強く噛んで、グラスを彼へ返した……。

ふと視線に気づいて目をやると、こちらを刺すような眼差しで凝視しているニルヴァーナ侯爵の顔が見えて、その鬼気すら迫るような雰囲気にそら恐ろしささえ感じるようだった……。