「……申し訳ありません。今のは、お忘れください……」

「……忘れるなんて、無理よ…」

口づけられた耳を、手で押さえる。

「……いいえ、どうかお忘れに。そうでなければ、私の方が辛くなります……」

「……リュート、」

私の方を見ようとはしない彼に、

「……リュート、なら一度だけここで私と踊って?」

言うと、

リュートはしばらく黙って私を見た後で、すっと私の前に腰を落として片膝をつき、

「……承知致しました。では、今宵、一度きりあなたと……」

手の甲へと、静かに口づけた。