シャンパングラスに一口を付けて、
「……もう、帰りたい」
ぽつりと言うと、
「お嬢様、まだいらしたばかりではないですか」
と、声をひそめて、耳打ちをされた。
「……いいのよ」
遠巻きにも、リュートに多くの好奇な眼差しが注がれているのがわかる。
きっと、彼女たちは彼を自分のお抱えの執事にして、連れ歩くアクセサリーにちょうどいいだなんて、思っているのに違いなかった。
「……せめて、どなたかと踊られてからではないと、私から奥様に言い訳も立ちませんので……」
そんな視線に気づいてるだろうリュートを、横目に見やる。
「……だったら、あなたが私と踊ってよ?」
彼を独占したい気持ちが湧いて、言うのに、
「……私がですか?」
と、リュートがじっと見つめる。
「…そうよ…」
「ジュリア様、私は一介の執事に過ぎません。お相手などは致しかねます」
そうきっぱりと口にする彼に、いろいろな感情が混じり合い、堪え切れない涙が溢れた。