「……幸せ……リュー…ト……」
思い起こされた、その名前を呟くと、
「……そうです、お嬢様」
と、サムが私の身体を強く抱きしめた。
「行かれてください、彼のところへ……」
「……私、彼のところに、行けるの……?」
ぼんやりと夢うつつのようにも、聞き返す。
「…ええ、行けますとも。このサムが、ここから出して差し上げますので」
言うのに、「だめよ…」と、応える。
「……そんなことをしたら、あなたが責められてしまうわ……」
「……大丈夫です。鍵が壊れて開いてしまっていたことにしますから、だから心配をせずに」
言いながら、サムが骨張った手で私の背中を優しく叩いた。


