あたしがお金を渡すと、陽平は喜んでくれたので、それで良いと思っていた。


これで陽平があんな仕事に戻らないのならと、そんな風に思えば、自分が体を売ったことも、少しは肯定出来るような気がしていたのだ。


あの時陽平が拾ってくれたら、今のあたしがあるのだから、恩返しなのだと思えば、こんなの何てことはない。







翌日もあたしは、巡回通りのいつもの場所に立った。


立って、そしてただ、街行く人々の波を見つめているだけ。


幾分日差しが強くなった印象で、自動販売機の影に隠れている状態なわけだけど。


だけども少しばかり気分が悪くなり、マックに避難しようと思い、きびすを返した。


こんな時期に日射病なんてありえないのだろうけど、そんな感じでフラフラとしたままに足を進めていると、ドンッと誰かにぶつかって。


“ごめんなさい”と顔を上げた刹那、あたしは目を見開いた。



「…夏、希…」


そうあたしの名前を呼んだのは、ぶつかった女の人がネットリと腕を絡める男で、瞬間にあたしは、視線を泳がせたのだけれど。


だけども不審そうに眉を寄せたのは彼女で、“誰?”と、彼とあたしを交互に見比べて。



「別に。」


そんな風に冷たく投げられた言葉が頭の上から降ってきて、思わず握り締めた拳は、少しばかり震えていた。


同じ街に住んでいて、だからこの場所で会うのだって当たり前で。


出て行ったのはあたしなのだから、この人が女を作っていたとしても、責める理由はないはずなのに。



「お幸せに。」


そんな一言を残し、彼、クロは、腕を絡める彼女を引き連れ、人波に消えた。


再び顔を俯かせ、やっと呼吸が許されたように少しの震える吐息を吐き出せば、軋んだ胸は痛みを帯びて脈を打つ。


あたしに課せられた罰は、思いの他大きく重いと感じずにはいられなかった。