久しぶりに巡回通りに立つと、やっぱり何も変わることのない人の多さに圧倒され、軽く眩暈さえも覚えてしまうのだけれど。


クロに会いたくなくてあたしは、顔を俯かせるようにして、手早く携帯を操作した。


そんな光景は人波に混じり、誰もあたしが売春をしているだなんてこと、疑いもしないのだろうな、と思うと笑うことしか出来ないのだけれど。






「久しぶりだね、夏希ちゃん。
廃業しちゃったのかと思ったよ。」


クスリと笑った彼、石部サンは、冗談交じりにそう言った。


“風邪引いてたの”と、そんな風に返しながらも、一番初めに抱かれるのがこの人だということは、せめてもの救いなのかもしれないなと、そんな風に思ってしまう。


スーツの上着を脱いだ彼は、おもむろにネクタイを緩めて。



「何でそんなに悲しそうな顔してるの?」


目を見開くと、“やっぱりね”なんて言葉と共にキスをひとつ落とされてしまい、隠せないなと、苦笑いを浮かべてしまう。


行為の最中に会話を交わすのが好きなのだと言うこの人は、何故だかあたしのことを知りたがるのだが、いつの間にやら色々と見抜かれてしまっているのが実状だ。



「好きな人のこと考えてるの?」


「…そんなんじゃ…」


ない、と言い掛けたのだが、何もかもを見透かしたようなその瞳によって遮られてしまう始末。


そんなあたしを彼はまたクスリと笑い、首筋から順に下へと降りるように、ひとつひとつの場所にキスを落としていく。



「じゃあ今日は、俺をその人だと思ってよ。」


「…そん、なの…」


そんなの、無理に決まってるんだ。


だってあたしは、クロがどんな風に抱いてくれるのかなんて、知らないのだから。


指先のぬくもりさえも思い出せなくて、交わるキスの中で、意識ばかりが沈んでいく。