「到着♪」
思考が停止してしまったあたしに掛けられたのはそんな言葉で、弾かれたように辺りを見渡せば、街灯のひとつも存在しない場所。
そこが海なのだと気付くまでに少し時間は掛かったのだが、“降りよう”と言ってクロは、嬉しそうに車を停車させた。
仕方なくあたしも車から降りてみれば、静寂の中で響くのは波音で、夜風に混じる潮の香りが、幾分キツいなと感じてしまう。
春になったばかりの夜の海は、当たり前に人っ子一人存在しては居らず、肌寒さの中で真っ暗な中に飲みこまれてしまいそうだと思った。
「ちょっと歩く?」
そう言った瞬間、あたしの指先に別の指先が絡まり、そのまま手を引かれた。
クロと手を繋いだ状態になっていることに気付くまでにやっぱり時間が掛かってしまい、改めて変なことになったなと、そう思った。
一歩前を歩くクロからは、潮風に混じってパーラメントの匂いが鼻をつく。
「つーかさぁ。
お前今日、もしかして泣いてた?」
「―――ッ!」
あたしの手を引いたままにそんな言葉が紡がれ、驚いて足を止めてしまうと、クロはゆっくりと振り返り、視線だけを投げてきた。
何も言えなくなって小さく視線だけを泳がせていると、刹那、繋いだ指先が引かれ、砂に埋まったヒールの所為でよろめく格好になって。
支えられたのか、抱き締められたのか。
気付けばあたしは、クロの胸に顔をうずめていた。
聞こえてくるのは胸の鼓動で、それがどちらのものなのかはわからないが、ただ体が硬直したように動けなくなって。
「…アンタが何考えてんのかわかんないっ…」
辛うじて動くのは唇で、やっとの思いで言葉を紡ぎ出すと、“教えてあげようか?”と彼は、そう言って。
「お前のこと考えてんだけど。」
思考が停止してしまったあたしに掛けられたのはそんな言葉で、弾かれたように辺りを見渡せば、街灯のひとつも存在しない場所。
そこが海なのだと気付くまでに少し時間は掛かったのだが、“降りよう”と言ってクロは、嬉しそうに車を停車させた。
仕方なくあたしも車から降りてみれば、静寂の中で響くのは波音で、夜風に混じる潮の香りが、幾分キツいなと感じてしまう。
春になったばかりの夜の海は、当たり前に人っ子一人存在しては居らず、肌寒さの中で真っ暗な中に飲みこまれてしまいそうだと思った。
「ちょっと歩く?」
そう言った瞬間、あたしの指先に別の指先が絡まり、そのまま手を引かれた。
クロと手を繋いだ状態になっていることに気付くまでにやっぱり時間が掛かってしまい、改めて変なことになったなと、そう思った。
一歩前を歩くクロからは、潮風に混じってパーラメントの匂いが鼻をつく。
「つーかさぁ。
お前今日、もしかして泣いてた?」
「―――ッ!」
あたしの手を引いたままにそんな言葉が紡がれ、驚いて足を止めてしまうと、クロはゆっくりと振り返り、視線だけを投げてきた。
何も言えなくなって小さく視線だけを泳がせていると、刹那、繋いだ指先が引かれ、砂に埋まったヒールの所為でよろめく格好になって。
支えられたのか、抱き締められたのか。
気付けばあたしは、クロの胸に顔をうずめていた。
聞こえてくるのは胸の鼓動で、それがどちらのものなのかはわからないが、ただ体が硬直したように動けなくなって。
「…アンタが何考えてんのかわかんないっ…」
辛うじて動くのは唇で、やっとの思いで言葉を紡ぎ出すと、“教えてあげようか?”と彼は、そう言って。
「お前のこと考えてんだけど。」


