向日葵

結局ほとんど会話を交わすことなく食事は終わり、居心地の悪さに耐えかねて“早く出よう”と言ったのは、あたしの方だった。


未だクロが何を考えているのかもわからないし、車に乗り込んだは良いが、どこに向かってるのかも定かではない。



「つか、これ先に渡しとくわ。」


咥え煙草で彼がおもむろにポケットから取り出したのは、札束。


一見しただけではわからないが、軽く10万くらいはあるんじゃないかと思い、戸惑うようにあたしは、目を見開いた。



「アンタ、ホントに馬鹿なんじゃないの?」


「何で?」


「普通、そんなに出さないし。」


「へぇ。
じゃあ、次の分も、ってことで良いじゃん。」


コイツにとって、お金の価値はその程度なのだろうか。


さも当たり前のように言ってのけられ、おまけに“受け取らないの?”なんて付け加えられる始末。



「そんなに払って、何する気?」


「何もしないよ。
強いて言うなら、デートするくらい?」


「……え?」


言われている言葉の意味がわからずに眉を寄せて顔を向けてみれば、“デートだよ”と、もう一度そう言われたのだが。



「何やっても良いって、夏希が言ったんだろ?」


「…だからって…」


「だって俺、そんな狼みたいな男じゃないし。
まぁ、どうしても俺とヤりたいって言うなら、考えなくもないけど。」


フッと口元を緩め、小さく笑みを零す顔に、どうしたものかと頭を抱えてしまう。


こんなことを言われたのなんて初めてだし、何もしないと言われている以上、お金だって受け取れない。