向日葵

世界は薄墨の色に染まっていて、帰宅ラッシュは少し過ぎたものの、それでも人の多さは相変わらずと言ったところだろう。


駅裏のロータリーで辺りを伺えば、少し向こうに止まっている一台の車を発見し、その場所まで足を進めた。


無言で車に乗り込むと、あたしを確認した彼はシフトをドライブに入れ、すぐに車は走り出す。



「とりあえず飯で良い?」


横目でこちらを捕えるようにして問われた言葉に、あたしはコクリとだけ頷いた。


タイトなスーツを着ているクロの姿なんて初めてで、まるで別人のように感じてしまうのだが。


いつも以上に何も言葉を交わさないなと、そう思うと何故だか笑えてきて、窓の外へと視線を移すと、ビルの群れが流れ去るようにも見受けられた。








駐車場に車は止まり、それから降りると、どうやらイタリアンのお店みたいだけど。


中へと足を進めるクロの後ろに続けば、少し暗めの照明が雰囲気を醸し出していて、そのまま個室へと通された。


向かい合わせに座ってみれば、こんな小洒落た場所は自分にはひどく不似合いだなと思ってしまう。



「さっきから黙ったままだな。」


フッと口元を緩めた彼は、そう言って煙草を咥えた。


そんな仕草は、この場所に嫌にマッチしているようにも見えて、慣れているのだろうなと、そんな風に思わされる。



「こういうとこ、よく来るの?」


「たまにね。」


交わしたのはやっぱりたった一言だったのだが、それ以上言葉は見つからず、手持ち無沙汰のままにメニュー表へと視線を落とせば、

当たり前だけどコロッケはなくて、小さく吐き出したため息だけが、流れるジャズに溶けていく。