街にはリクルートスーツに身を包んだ若者が増え、希望に満ちた瞳を眩しいと感じずにはいられなかった。


まるで、輝かしい未来に期待でもしているようで、人生を諦めてしまったあたしとは対照的だ。



「夏希?」


騒喧の中で耳に付いたのはあたしを呼ぶ声で、辺りをキョロキョロと伺えば、小走りに近づいてきたのは陽平だった。


一緒に住んでいるけど、こんな場所で会うのは珍しくて、驚いたように目を丸くすれば、サングラス越しにクッと笑った顔が近付く。



「何やってんの?」


「陽平こそ何やってんの?
てか、仕事中なんじゃないの?」


「まぁね。」


そう短く返されては、それ以上聞くことも出来ないのだが、誰に見られるとも限らないので、なるべく一緒に歩いたりなんてことはしたくないのだが。


普段は陽平の仕事なんて興味もないけど、でも、昼間から街をフラフラしてるなんて、

きっとあたしと同じでロクなことなんてしてないのだろうなと、失礼ながらそう思わずにはいられない。



「じゃあ俺、そろそろ行くわ。」


じゃあ何で呼び止めたのだろうと、そう思ったのだけれど。


きびすを返して歩き出した陽平の後ろ姿は少しフラついていて、昼間から飲んでるのかなと、そんなことを思った。


だけどもそんな考えは吹き抜けた春風に持ち去られ、ひとつため息を零してあたしも、陽平とは逆方向に足を踏み出した。


見えたのはパーキング前の自動販売機なのだが、そこにクロの姿は、当たり前のように存在しては居なかった。


そんなことに今更だなと、そう自分自身にため息を混じらせてしまう。


あの日以来、あたしの携帯はクロからの着信を告げることはなくなったと言うのに。