「これでもさ、心配してたんだぜ?」


寒気さえも感じて掴んだ自らの腕は、自然と力が入り、爪が食い込む所為で痛みが走る。


暗がりの中でもさすがにあたしの顔が青くなっていることに気付いたのかクロは、“夏希?”と少し眉を寄せるようにしてあたしの名前を呼んだのだが。


だけどもその瞬間、あたしはビクッと身をすくめてしまう。



「お前、マジでどうかした?」


「…何でも、ない…」


落ち着きたくて煙草を取り出すと、手が震えている自分自身がひどく情けなくて仕方がなかった。


あんな過去に縛られてるなんて馬鹿みたいだと思いながらも、結局あたしは、未だに抜け出せないまま。


気を抜けば泣き出してしまいそうで、きつく唇を噛み締めてしまう。



「…頼むから、もうあたしに関わらないで。」


「俺の気持ち、知ってんだろ?」


「…知らないし、聞きたくないっ…」


吐き出すように絞り出せば、クロはそれ以上は何も言おうとはしなかった。


沈黙が重たくて、息苦しさは拭えないまま。



「わかったよ。
わかったから、だから頼むから泣くな。」


泣いてるつもりなんて、これっぽっちもなかったのに。


なのに、そんな風に言われてしまえば自然と涙が溢れていることに気付き、俯くようにして声を殺した。


何で泣いてるのかなんてわからないままで、頭の中全部ぐちゃぐちゃで。


まるで自分が弱い子に成り下がってしまったようで、それがひどく悔しくて仕方がなかった。