店の裏手にある駐車場まで来たところでクロは、智也の呼びかけにやっと足を止めてくれた。


が、あたしの腕を掴んだままの手を離してくれる気配はないままで。



「何?」


「つか、いくら龍司さんでも、俺の親友にそういうことすんの、やめてもらえません?」


「お前ら、付き合ってないんだろ?
なら関係ないと思うけど。」


シレッとした態度なのは相変わらずで、唇を噛み締めてあたしは、無理やりにその手を振り払った。


さすがは裏通りに面しているだけあって、辺りは静寂に包まれていて、パシッと響いた乾いた音に、クロはあからさまに眉を寄せた。



「二人に何があったかは知りませんけど、夏希、嫌がってますよ?」


「そうみたいだな。
けど、俺はコイツに話があんだよね。」


結局智也は困ったように長いため息を吐き出し、頭をくしゃくしゃと掻いた。


そして少しの沈黙の後、“わかりましたよ”と漏らした彼はあたし達に背を向けるようにきびすを返して。



「ちょっ、智也!」


「俺、人の色恋の話には関わりたくないんだよねぇ。」


急いで制止の声を上げてはみたものの、そう、手をヒラヒラとさせた姿は遠くなっていき、思わず意識が遠のきそうになったわけだが。


わけだが、気を抜けばクロに何をされるかわからず、智也の背中に向けていた視線を、恐る恐るそちらへと戻した。



「とりあえず、俺の車乗れば?」


「嫌だって言ったよね?」


「じゃあ、こんなとこで言い争うの?」


そんなことを言われてしまえばどうすることも出来なくて、仕方なくあたしはクロのものだと言う高級車に乗り込んだ。


同じ巡回通りに居る以上、一生会わないまま過ごすことなんて多分無理だろうし、コイツの言うことを聞いて終われるなら、もうそれだけで良いと考えたのだ。


今更何をされようとも、あたしは痛くも痒くもないのだから。