「…何か悩み事?」


キラキラと輝く光の粒をまき散らしている天井のシャンデリアをただ眺めているあたしに、“石部サン”がそう問い掛けてきた。


顔を向けてみれば、クスッと笑った彼はあたしにキスを落とす。



「そんな風に見える?」


「見えるね。」


彼はあたしのお得意様で、結構優しく抱いてくれる人。


“そんなことないけど”と、そう言ってはみたものの、まるでお見通しと言わんばかりの瞳が痛い。



「好きな人のこと考えてるの?」


「そう、石部サンのこと。」


「嘘ばっか。」


やはり、バレバレと言ったところだろう。


けど、正確に言えば、“好きな人”という定義は間違っている。


だってあたしは、クロのことなんて好きじゃないんだから。



「嫌いな人のこと考えてたの。」


「知ってる?
好きと嫌いって、紙一重なんだよ。」


「…何それ。」


「好きでも嫌いでも、同じだけ頭の中を占めてる、ってことかな。」


難しいことを言う人だなと、そうは思ったけれど、だけどもあながち間違ってもいないと思うと、苦笑いを浮かべることしか出来なくて。


“ちょっと妬けちゃうな”と、そう漏らし彼は、あたしの唇を再び塞いだ。


塞いで、そして纏っている服を脱ぎ捨て、あたしの体中に舌を這わしていく。


だけども遠くなっていく意識の中で、先ほどの石部サンの言葉ばかりがグルグルと回り続け、やっぱりこんな行為を気持ち良いと感じることは出来なかった。