翌日、目を覚ますと時計の針は真上で重なっていて、おまけにソファーで寝たため、体中が悲鳴を上げるように軋んでいた。


痛みを覚えつつ体を起こせば、机の上に置かれたビールの缶に、陽平が帰ってきているのだろうことに気付かされて。



「…陽平?」


そう、寝室の扉を開けて声を掛けてみるも、彼が起きる気配は皆無で、まぁ良いやとあたしは、出掛ける準備を開始した。


最近の陽平は、一度眠るとなかなか起きないのだが、きっと疲れているのだろうなと思い、あたしが何かを言うことはない。


同じ部屋で暮らしていたとしても、あたし達は互いを干渉し合わないのがルールだから。







♪~♪~♪

家を出た頃合を見計ったように鳴り響いたのはあたしの携帯の着信音で、ディスプレイには“クロ”と表示されていた。


が、ため息を混じらせながらあたしは、それを再びバッグへと投げ入れてしまう。


最後に会ってからもう、二週間くらいになるだろうか。


なのに何故こんなにも、あたしみたいなのに執着するのだろうなと、そんなことを思っているうちに着信音は鳴り止んだ。


久々に空は重たい色をしていて、まるで今にも泣き出してしまいそう。


少しの湿度を含んだ風はいつもよりも幾分冷たく、上着を持ってくるべきだったかなと、そんなことを思ってしまう。


抜ける並木道は木の葉が揺れ、揺落の中で人々は、雨が降りそうだとばかりに小走りであたしの横を駆け抜けていく。


どこへ向かっているのかもわからないのに、何故だか置いて行かれそうな気がして、まるであたしの人生そのものだなと思うと、笑うことしか出来なかった。