「夏希、彼氏居んの?」


「居ない。
てゆーか、そういうのいらないから。」


「…まだあんなこと続けてんだ。」


「悪い?」


そう小さく睨むあたしに、智也は何も言おうとはしなかった。


代わりにため息だけを吐き出され、苦虫を噛み潰したようにあたしは、ビールを口に運んだ。



「つか、ごめん。」


「別に、責めてるわけじゃないから。」


こんな会話が、ただ痛々しかった。


言葉は決して芯の部分に触れることはなく、奥深くに仕舞い込んだはずの記憶ばかりが溢れ出し、無意識のうちに唇を噛み締めてしまう。



「…実家、帰ってないの?」


「帰りたいとも思わないよ。」


まるで照明の色がワントーン暗くなったように、視界に映る色にモヤが掛かっていくのを感じた。


煙草の味も、ビールの味も、苦いばかりで嫌になる。



「まぁ、住んでるとこも近いってわかったし、また二人で飲みに行こうぜ。」


「奢り?」


「任せとけって。」


ははっと笑った智也の顔に、自然とあたしの口元も緩んでいく。


乗り気じゃなかった同窓会だけど、思わぬ再会を果たし、少しばかり来て良かったと思わされた。