ボーッと街を眺めていると、ふと少し向こうに何か黒いものが落ちていることに気がついた。


眉を寄せてその傍まで足を進めてみれば、誰かが落としたのだろう携帯電話。


それを持ち上げたは良いが、さてどうしたものかと思ってしまう。


放っておけば落とし主は困るかもしれないが、中を見ることもはなばかられるし、だからと言ってあたしは、警察に届ける、なんてガラでもない。



♪~♪~♪

刹那、鳴り響いたのはあたしの手の中にある携帯の着信音で、思わず驚いて肩を上げてしまった。


が、出るべきなのか出ないべきなのかと、微妙に躊躇してしまうわけで。



―ピッ

『あっ、良かった!
もしかして、その携帯拾ってくれた人?』


「…そうだけど。」


とりあえず的に通話ボタンを押してみれば、きっと持ち主なのだろう安堵の声が電話口から聞こえた。


声の感じからして、若い男なのだろうと推測されるが。



『つか、今どこ?』


「…巡回通りのパーキング前の…」


『マジ?
じゃあ、すぐ戻るから、そこに居て!』


あたしが言い終わるより先に電話の向こうの彼は早口でそう告げ、そして強制的に通話が遮断されてしまった。


鳴り響く通話終了の音を耳から離しあたしは、思わずポカンとしてしまうのだが。


普通、拾ってくれた人に対して、まず感謝の言葉を言うのが筋じゃないのかと、そう思うと、徐々に怒りが込み上げてきて。


だけどもそれをぶつけようにも相手は居らず、手に持つ真っ黒の携帯だけが、その存在感を増しているような気がした。


何かムカつくし、もう一度捨ててやろうかとさえ思ってしまうが。


あたしは基本、優しいのだし、と。


そう無理やりに言い聞かせ、込み上げてきた怒りを何とか飲み込んだのだ。