そう言った刹那、あたしの背中越しの扉が、キィッと小さく金属音を鳴らした。


無意識のうちに顔を向けてみれば、そこに立つ人物の姿に、思わず目を見開いてしまって。



「遅いんだよ、龍司。」


ただ、何が起こっているのかわからなかった。


扉を開けたのはクロで、彼もまた、意味もわからないと言った様子で立ち尽くすのみ。


そんなあたし達に相葉サンは、どこか可笑しそうに口元を緩めるだけで、“驚いた?”と、悪気もないのだろう台詞を口にする。



「バイト、夏希チャン雇うことに決めたから。」


「…いや、ちょっ…」


「だから龍司も、さっさとオープンの準備しようよ。」


戸惑うあたしをまるっきり無視で、そう彼は、クロへと向けた。


つまりはこの店は、相葉サンが経営して、クロが雇われ店長ってことなんだろうけど。



「…ヨシくん、ちょっと待とうよ…」


「決断力もない男に育てた覚えはないけど?
てゆーか、いつまでも俺の部屋に居候されても困るんだよね。」


「―――ッ!」


「湿っぽくて嫌になる。」


彼が吐き捨てた言葉に、クロがそれ以上何かを言うことはなかった。


小さな三人分の沈黙が薄暗い店の中に溶け、息苦しさを感じずにはいられない。



「二ヶ月も離れりゃ、少しは冷静になったろ?
俺の命令、お前ら二人で話し合えよ。」


そう言った相葉サンは煙草を咥え、あたしの横をかすめるようにして通り過ぎた後、クロの肩をポンポンと二度叩き、そしてひとり、店を後にした。


パタンと静かに扉が閉められ、あたしは視線を上げることも出来ずに未だ立ち尽くしたまま。


突然に、しかもこんな形での再会だなんて、心の準備さえも出来ていなかったのだから。



「ごめん、知らなくて。」