「…いや、そういうわけでもないけど…」


「自分のことで精一杯な俺様が、別れた女の、しかも他の男との色恋の話なんか聞いてられっかよ。」


“つか、嘘でも俺の心配しようよ”と、そんな言葉にあたしは、曖昧にしか笑えないのだけれど。


別に何をしにきたわけでもないんだけど、一応、あたしにだって拾ってもらった恩くらいは感じているから。



「もし執行猶予取れたら、とか期待しちゃうじゃねぇかよ。」


「…しないでよ。」


「するかよ、バーカ。
ここ出たらハーレムの予定だし、お前なんかに構ってる暇ねぇんだよ。」


陽平も陽平なりに、捕まった今は、これからのことを考え、人生の仕切り直しをしようと懸命なのだろう。


そんな強がりに、“振られちゃった”とあたしが返すと、彼は可笑しそうに口元だけを緩めた。


不意にクロも、もしかしたらすでに新しい彼女が居るのかな、なんてことが頭をよぎり、あたしはまた、俯くことしか出来なくて。


どうしてこうも、こじつけたように思い出してしまうのだろう。



「俺のことなんか待ってなくて良いし、気にする必要ねぇからな。
だから夏希は、自分の人生を好きに生きろ。」


「…陽、平…」


「とか、すっげぇ格好良く言ってみたけど。
戻れる日が来たら良いなとか、地味に頭の片隅で思ってて。」


本当に、らしくない陽平の姿だった。


ヤンチャなニイちゃん風だったあの頃に比べれば、随分落ち着いてしまったのだろう。


だけどあたし的には、こっちの方がずっと良い。



「ごめん、それはない。」


「わかってるよ。
今日呼んだの、そうやって言って欲しかっただけだし。」


「じゃあ、あたしなんかの前で泣き事言わないの。
心配してたら間違って好きになっちゃいそうじゃん。」


「そりゃ、選択に困るな。」


今までずっと、復讐することしか頭になかったけど。


それでも視野を広げてみれば、こんなにもあたしを想ってくれる人が居たんだ。


色んな形があって、全然気付けなかったけど、それでもそんなことが今は、少しだけくすぐったい気分だった。