たかだか隣街だし、3,40分も車で走れば、景色は徐々に知った色に変わっていく。


それと比例するように、あたしの手の平にもじんわりと汗が滲み、熱を失っていくのを感じた。


無意識のうちに煙草ばかりを吸ってしまい、どうにか落ち着こうと試みるのだが、過去の記憶ばかりが部分的にフラッシュバックしてしまい、本当に嫌になる。


痛みの記憶は鮮明で、真っ青な空の色は今のあたしの気持ちには似つかわしくないと思わされるばかり。



「あたしのこと、何で生んだのかなって、そんなこと思うんだ。」


「どうして生んだのかなんて、あんまり重要じゃないよ。
生まれてきたからには、自分の生きる意味は自分で探すべきだと思うけど?」


「…じゃあ、クロの生きる意味は?」


「わかんねぇけど。
夏希の心の中を掃除してやるのが俺の役目かもな、って。」


不思議なことを言うなと、そう思った。


それでもあたし達は、同じ痛みを味わったからこそ、分かりあえているのだろう。


ちっぽけなだけのあたしは、クロに一体何が出来るだろうか。



「あたし、ずっと復讐してやりたかったんだ。
でも、今は会ってどうすれば良いのかわかんない。」


「怖い?」


「怖いね、正直。」


そう、苦笑いを浮かべると、彼はそっとあたしの頬に指先を触れさせた。


その行為がどんな意味を持つのかはわからないけど、でも、“言いたいこと言ってやれ”と、そんな台詞にあたしは、また苦笑いを浮かべてしまったのだけれど。



「俺がついててやるしさ。
お前のことはぶっ壊れさせたりしねぇから。」


徐々に景色は並木通りへと移り変わり、目前には総合病院が見える。


あそこにお父さんが居て、そしてあたしは、ちゃんと過去と向き合うんだ。


もう、逃げたりなんかしないし、隣にはクロが居てくれるのだからと、繋いだ手をキュッと握った。