痛いのも、辛いのも、もう嫌だったのに。


こんなことならこのまま殺してくれ方がマシなのにと、そんなことを思いながら倒れ込んだあたしに、気が済んだのだろう父親は、冷たい瞳を落とした。



『お前が出来なきゃ、母さんとなんか結婚しなかったよ。』


『…あた、し…』


『目ざわりだから、部屋に戻ってくれないか?』


この期に及んで、まだこんな台詞を使われるのだから。


這うように体を起こせば、フローリングについた手に鋭い痛みを覚え、持ち上げてみれば、砕けたカラス片に血が滲んでいた。


あの日、殺してくれないのなら、あたしが殺してやるんだと、そう誓ったことを覚えている。








目を覚ました時にはカーテンは淡い色に染められていて、夢と現実の境界線を探すように、無意識のうちに自らの手の平へと視線を落としてしまう。


当然そこに出血なんて見られないし、ひどく乱れた呼吸を整えながら、額に滲んだ汗を拭った。


こんな夢、久しく見ていなかったはずなのに、なのに何で今更になってと、そう思うと唇を噛み締めることしか出来ないのだけれど。


どんなに忘れようとしても、過去の積み重ねの上に今のあたしがあるのだと、そう言われているようだった。



「…夏希?」


刹那、肩を上げて顔を向けてみれば、起こしてしまったのかクロは、眉を寄せ気味にあたしの名前を紡いでいて。


何でもないのだと、そんな陳腐な言葉さえも手繰り寄せることは叶わず、あたしは首を横に振ることしか出来なくて。



「お前、顔色どした?」


頬に添えられるように伸びてきた手に身をすくめれば、クロにまで恐怖心を抱いてしまっている自分に気付いたのだけれど。


どうにも出来なくて涙が溢れてきて、そんなあたしを彼は、何も言わずに引き寄せるようにして抱き締めてくれた。