「…そん、な…」


「お兄ちゃんは、龍司を一生許さないつもりで力で抑えつけたただけでしょ?
だけどこれが真実だから、そろそろ解放してあげても良いんじゃない?」


“もう十分でしょ?”と、彼女は付け加えた。


相葉サンがあたしとクロの関係を許せなかったのは、サチさんのためで、だけども彼女はそれら全ても見抜いていると言ったようで。



「本当に、海斗は龍司の子供じゃないの?」


「さっきからそう言ってるでしょ?
必要とあらば、DNAでも検査してみたら?」


ひとつため息を吐き出しながらに言ったサチさんの台詞に、相葉サンは諦めたように闇空を仰いだ。


仰いで、そして“じゃあもう良いよ”と、そんな台詞。



「龍司なんか、もういらないから。
だから、仕事だって辞めたいなら勝手にしろよ。」


「…ヨシ、くん…?」


「10年前に拾ってやった恩は、これでチャラ。」


それだけ言った彼は、そのままあたし達に背を向け、手をヒラヒラとさせるだけで。


“お先に”と、そんな言葉ひとつを残し、この場を去った。


残されたあたしが戸惑うように視線を定める場所を探していれば、それは不意に、サチさんのものとぶつかって。



「龍司に謝るのは、多分自己満足になるだろうから。
だから、夏希チャンに謝りたくて。」


「…えっ…」


「あたしが言える台詞でもないけど、龍司のことよろしくね。」


「…勝手、ですね。」


「そうね、それも否定出来ないけど。
でも、心からそう思ってるから。」


本当に、勝手な兄妹だと思ってしまう。


一体誰の所為で、こんなことになったと言うのか。


散々巻き込んで、そして“よろしくね”なんて言われても今更で、あたし達はもう、終わってるのに。



「もう、関係ありませんから。」