向日葵

食事を終え、夜の巡回通りを歩けば、相変わらずの人の多さに、思わず酔ってしまいそうになるのだが。


昨日海を眺めながらリフレッシュしたはずなのに、もうテンションが下がってしまう。



「龍司？」


そう、背中越しに女の声で彼の名前が呼ばれ、無意識のうちに顔を向けてみれば、見覚えのある彼女が目を丸くしていて。


確か、美弥子サン、って名前の人。


クロへと視線を移せば、彼は明らかにバツが悪そうな顔で、舌打ちを混じらせていて。



「…人違いじゃないですか？」


「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ。」


カツカツカツとヒールを鳴らしながら、怒った様子の彼女がこちらへと近づいてきて、あたしはと言うと、思わず体を強張らせてしまうのだが。


相変わらず派手で、夜の仕事をしているようにも見受けられる。



「あら、よく会うわね。」


そうやってあたしへと落ちてきたのは綺麗に作られた笑顔で、その瞳の奥を読み取ることは叶わず、どんな顔をして良いのかさえもわからなくて。


思わず立ち尽くしていると、“行くぞ、夏希”と、そんな言葉と共にあたしの腕を引き、クロはきびすを返したのだけれど。


小さくこちらを睨んだ美弥子サンは、“ねぇ、龍司！”と、彼の背中に向けて再び声を大きくして。



「サチ、帰って来てるらしいわよ？」


刹那、その言葉に足を止めたのはクロで、ゆっくりと向けただけの顔は、驚いたように目を見開いていて。


反応したのは、明らかに“サチ”という女の名前でだろう。


だけどもあたしの視線に気付いたのか彼は、弾かれたようにそれを逸らし、再び強引にあたしの腕を引いた。


早足で、美弥子サンから逃げているような腕の力に、小さな痛みを覚えるのだけれど。


一切こちらに顔を向けることはなく、その表情は見えないまま。