驚いたように顔を向けてみれば、“ベッドの中で”と付け加え、彼は口角だけを上げた。


そんな顔に、結局心配してるのはあたしだけなのだろうと思ってしまうわけだけど。


若干呆れてしまい、あからさまにため息を吐き出してやれば、BGMとして流れている琴の音色が嫌に耳について。



「知らないよ、もう。」


「何だ、残念。」


「うるさい。」


口を尖らせれば、彼は笑みを零したように口元を緩めたのだが、それ以上反論出来ないのは、惚れた弱みというやつだろうか。


だとするならば、随分面倒くさい感情だなと思わずにはいられない。



「素直になれば?」


「クロの方じゃない?」


「それは言えてる。」


諦めたように肩をすくめる彼がやけに正直にそう漏らしたので、驚かずにはいられなかったわけだけど。


どうやらあたしもクロも、強がってばかりで生きてきて、気付けば素直になるなんてことが一番難しくなってしまったようだ。


一応古典的に絆創膏を貼ったキスマークを、それの上から指でなぞれば、昨日、自分を変える決意をしたのだと、そんなことを思い出して。



「ねぇ。」


「ん?」


「これから、ずっと一緒に居てくれる?」


「夏希がそれを望むならね。」


随分人任せな台詞だなと、そんなことを思ってしまうのだが。


視線がぶつかり、口元だけを緩めるあたしに、“笑うところじゃないんですけど”と彼は、そんな台詞。


家出をするのがあたしの専売特許ならば、クロの専売特許は、上手く誤魔化すことなんじゃないのかと思った。