行為を終わらせると、陽平はあたしの隣で静かに煙草を咥え、その煙を闇の中へと吐き出した。


体中に痛みを感じながらあたしは、そんなものを無視し、ただ服を整える。


もう本当に、あたし達はこれで終わり。



「満足?」


そう問うてみたものの、隣から言葉が返ってくることはなくて、その瞳はこちらを向かないまま。


殴られなかったことだけが、不幸中の幸いだとでも思えば良いのだろうか。


静寂の中、“なぁ”と、陽平は言葉を紡ぎ出した。



「お前、ホントは俺のことなんか好きじゃなかったんだろ?」


「…今更そんなこと聞くんだ?」


自嘲気味に笑って言えば、ゆっくりと、彼の瞳はこちらに向いて。


だけどもその瞳がひどく真剣で、ただ驚くことしか出来なかったけど。



「荷物、持って行っとけ。」


「…えっ…?」


「俺、そろそろマジでヤバいから。」


そんな言葉だけを残し、陽平は最後の煙を吐き出しながらそれを放り投げ、そして立ち上がった。


ひどく戸惑うようにその姿を見上げるも、彼は一度もこちらを向くことはなく、ひとり路地裏を後にしてしまう。


“陽平?”と、今更ながらにそう名前を紡いでみても、そこに彼はもう、存在しない。


本当に、最後まで一体何を考えてるのかなんてわからないまま、ただ、吹き抜けた夜風がヒリヒリとする肌を通り過ぎ、小さな痛みだけをもたらした。


これでもう、あたしには何もなくなったのだ。


あの頃に、戻っただけのことなのに。


なのに気付けば、失ったものばかりがこの街の記憶として顔を出すのだから、嫌になる。