瞳を開けると窓の外からは、遮ることの出来ない陽射しが差し込み、思わず顔の前に手をかざしてしまう。


そのままの状態で瞳だけを動かすと、左隣りには陽平が居て、おまけにここはベッドの中。


そこから推測するに、あのまま眠ってしまったあたしは、陽平によってこの場所まで運ばれた、と言うことなのだろうが。


小さくため息を混じらせながら静かに体を起こし、その辺に投げていた手鏡を持ち上げて自分の顔を映し出すと、

昨日殴られた左頬が腫れていると想像していたのだが、思いのほか大したことはなくて、お化粧をすれば綺麗に隠すことが出来そうだな、と。


だけどもそれは、まるで昨日の出来事が嘘だったとでも言われているようで、未だ寝息を立てる陽平に視線を向けた。


どれが本当の陽平の姿で、あたしは彼の、一体何を信じれば良いのだろう。



『戻ったら、また繰り返すだけだろ?!』


『そんなの信じるなよ!
自分が何されたのか、忘れたわけじゃねぇだろ?!』


『ラリった上に殴って、無理やりヤるような男のこと選ぶの?』


そんなクロの言葉が、今更になって脳裏をよぎり、何度も繰り返されて。


耳を塞いでも払拭されることはなくて、ため息を混じらせながらあたしは、煙草を咥えた。







“仕事に行ってくる”と、そんな書置きだけを残し、家を出た。


あの場所に居たくないというのも本音ではあるが、お金を稼がなきゃ生きていけないのも確かなわけで。


巡回通りのいつもの場所で、道行く人々を眺めながら、何故彼女たちは笑っているのだろうなと、そんなことを思わされてしまう始末。


あたしと彼女たちは何が違っていて、あたしも彼女たちのような人生ならば、今頃のん気に笑っていたのかな、なんて。


そんなことを思ってしまう自分に、思わず苦笑いを浮かべてしまった。