多分、それからほんの数秒くらいだっただろうか、うずくまったままだったあたしの背中越しにガチャリと音が響き、顔を向けてみれば、ため息を混じらせた瞳が落ちる。


“立てってば”と、腕を持ち上げられたのだが、そこに力を込めることは困難で、唇を噛み締めることしか出来なくて。


あたしと同じ目線の高さまでしゃがみ込んだ陽平は、強引にキスを求めるのだが、あたしが顔を背けると、あからさまに舌打ちが吐き捨てられた。



「お前、俺のこと好きだっつったよなぁ?」


「…けど、こんなのっ…」


「じゃあ、俺のこと捨てんの?」


そんな弱々しいばかりの言葉ひとつに、簡単に抵抗する術は奪われた。


抗えばまた殴られそうで、意志とは別に体が強張り、指の先さえも動かせなくなって。


そんなあたしをよそに、彼はその触手を侵入させ、あたしの肌を滑り落ちる。



「ほら、これで仲直りじゃね?」


ただ、首を横に振ることでしか自分の意思を示せなくて、だけども当然のようにそれが陽平まで届くことはないまま。


小さな震えは、あたしを貫くモノによって、簡単に打ち消されてしまう始末。


こんな感情が“好き”という名前ではないことくらい、馬鹿なあたしにだってわかる。


それでも今度こそ逃げる場所も吐き出せる場所も失ってしまい、諦めめいた感情の中であたしは、意識を手放した。




自業自得。


ずっとそんな言葉の中に、自分自身を押し込めてきた。


ならば今度は、あたしの一体何が悪かったと言うのだろうか。


だけどもそんな答えを求めることが出来るほど、あたしは賢くなんてないのだ。


本当にただ、生まれて来なきゃ良かったなと、そう思わされるばかりだった。