向日葵

二人分の煙は真上にある換気扇に吸い込まれ、会話をする気もなくてあたしは、外を流れる人波に視線を向けた。


くたびれたサラリーマンも、小走りのOLさんも、未だ遊び歩く学生も、窓枠から切り取ってみれば、三流映画のワンシーンのようにしか感じない。


隣の席はまるで宴会のように叫ぶオッサンが占拠し、汚いあたしにはピッタリのような場所に思えた。



「アンタ、名前は?」


「夏希。」


「…本名?」


「どっちでも良くない?」


「まぁ、そりゃそうだ。」


視線さえも合わさずに交わす会話に意味はなく、それも一緒に真上の換気扇へと吸い込まれてしまうようで、肩をすくめたように彼は、自分のビールへと口をつけた。


だけども再び沈黙を破ったのは先ほどと同じ店員で、目の前に置かれたのは、向かい合う彼が頼んだのであろうメニューの数々。


“アンタも食えば?”なんて言われたのだが、同じものに端をつけようという気には、とてもじゃないがなれなくて。



「ねぇ、クロ。」


「……あ?」


「コロッケ、頼んで。」


再び顔を戻してみれば、あたしの視界を占めるのは眉を潜めた顔で、何でコイツが怒ってんのかわかんないんだけど。



「…それって、俺のこと?」


「アンタ以外に誰が居んの?
携帯黒かったから、アンタは“クロ”。」


“それだけなんですけど”と、そう言ってやれば、諦めたのか納得したのか、長いため息が吐き出された。


が、いつまで経ってもあたしのコロッケを注文してくれる気配はなさそうで、仕方なく先ほどと同じ店員を呼び止め、自分でそれを注文することとなったのだ。