旅行慣れしているのであろう。
最初、ツアーのビジターだと思っていたのもブラウンのツーピースにセカンドバックだけといった軽装が、僕にそう思わせていたのかもしれない。

「それで、ひとつお願いしたい事があるのですが…」

「僕に出来る事なら…」

「実は私、その部屋に忘れ物をしてしまって取りに行きたいんですが車の運転が出来ないんです。
ホテルはここからバスで1時間程の場所にあるロイヤル・エージェンシーなんですが、次のコンチネンタル・エアーに乗り遅れると彼との約束に間に合わなくて…」

フライトボードを見上げる僕を彼女は不安げそうに見つめた。

「片道40分もあれば間に合うと思うよ」

「それじゃ、交渉成立というわけね」

僕はどうも、女性の笑顔には弱いらしい。
ハイビスカスをモチーフにしたモニュメントが飾られたパーキングゲートの東側に彼女を案内すると、駐車ラインを横切る様にカーキーグリーンが鮮やかな左ハンドルのコンパーチブルが停めてあった。

「これって…あなたの愛車?」

「いつもはこの島でショップを経営している友人に預けてるんだ」

疑い深くコクピットを覗き込む彼女に僕は、ある物を取り出し見せた。