放課後、ぼんやり外をながめていると、美加が

「京子、矢広くんから伝言」
と、言いながら隣の席に座ってきた。

今日、アタシはこのあと薙刀部に顔を出す予定だ。
美加もそのことは知っていた。

最近、教室や部活で顔を合わせるだけで、ゆっくり話してない。登下校は矢広がベッタリ張り付いているので、話しにくかった。何せあの騒がしさだ。

「矢広くん、今日はバイト入れるから、先輩と一緒に帰れません、って」

「やあーりイ!やっと静かに帰れる。でもアイツ、バイトなんてしてたの?」

「急きょ、始める事にしたんだって。二人の愛の巣がどうとか言ってたけど、なんのこと?」

「さて……、止めよ、こんな話。どーでもいいや」

あのバカ、本気でアタシん家の近くに住む気か?

キョトンとしている美加に、
「それよりさ、久しぶりに『SPARROW』に行かない?」
と、誘ってみる。

『SPARROW』は、通学路から少し離れた裏路地にある、隠れ家的な喫茶店だ。

「あちゃ、ゴメン。今日、母の誕生日で。妹と三人で買い物の予定が……」
ホントにがっかりしている表情の美加。


「えー、残念。矢広抜きでダベれると思ったのに。いいや、『SPARROW』のママさんに愚痴、聞いてもらお」

「明日、じゃ、ダメかな?」
と、美加。

「もれなく矢広が付いて来そうだけどね。アイツには教えたくない。安らげる場所が減ってしまう」
美加は笑ってるが、こっちは切実だ。

「矢広くんも、連れてったらいいのに」
言いながら、教室を出る準備をするアタシを見ていた。
そして、アタシは、部活に行く。