その瞳は、嘘をつけない。

車に乗り込み、どこへ向かうのか聞いても教えてくれなかった。
一之瀬さん自身も考え事をしているようで、話しかけるのも少し遠慮してしまう。
沈黙が続くけど、それが意外にも心地よくて。
無理に変な話題を振って沈黙を破るくらいなら、このままでも良いかなって思う。

行くときには気にする余裕もなかった、車用の芳香剤の香りも心地よい。
グレープフルーツかな、柑橘系のさっぱりする香り。
この車に、一体何人の女の人を乗せたことがあるのかな。

せっかく上向きだった気持ちが、また沈んでいく。
天気が良く、暖かい日差しが肌を温めてくてるのとは反比例するように、心は冷たくなっていくようだ。

「着いたぞ。」

一之瀬さんから声を掛けられるころには、
自分が今どこに、誰といるのか考えられないくらい、
深いところに沈んでいた。

「え、ここって・・。」

到着したのは、一之瀬さんの住むアパート。

「お前、元カレと会ってから落ち込んでるだろ。」
「いえ、そんなつもりは・・・ないこともかいかも。」
落ち込む原因は、耕平だけじゃなく一之瀬さんに関係あるんだけど。

「気にならないように、忘れされてやるよ。」
「え・・・?」
「とりあえず、家に来い。」