「やっぱり凄いんだな。」


ふと漏れた言葉に、目の前に座る川島さんと目が合った。


「変わろうか?」

「あっ、いえ、大丈夫です。」


秘書課の誰もが憧れる人。

そういう私も榛名取締役は憧れの人だ。

スケジュール調整をし、内線で取締役に報告する。

そして開発企画部の榛名にも連絡する。


「秘書課の斉藤です。」

「ああ。」

「金曜の夜は空けといて。」

「デートのお誘いか?」

「会食。詳細はメールで送る。」

「はいはい。兄貴も行くのか?」

「もちろん。じゃあ。」

「今度はデートの誘いを待ってる。」


チャラそうな感じの男は開発企画部の榛名剛(はるな ごう)。

私の同期で榛名取締役の弟、つまりはハルナの御曹司の一人だ。

会社での人気は高いが、女にダラシない感じの剛に恋する筈もなく、男友達の一人として仲が良い。

剛にメールを送る。


『今度はデートに誘え。剛』

『暇ならね。悠菜。』


誰にでも言ってるんだろう。

相手にするだけ無駄。

席から立ち上がり、資料を片手に取締役室へ向かった。