なんか緊張してきた。

チラチラと時計に視線がいってしまう。


「斉藤さん?」

「えっ?」


前の席の川島さんと目が合う。


「どうかした?予定があるなら帰っても大丈夫よ?」

「いえ、大丈夫です。」

「そう?なんか時間を気にしてるみたいだから。」

「いえ。」


鋭い。

川島さんに悟られたら大変だ。

目を逸らして、残りの仕事に取り掛かる。


「あやしい。」

「何でもないですよ。」


仕事を進めながら答える。

やっぱり緊張してきた。

榛名取締役と2人で出掛けるのは仕事以外では初めてだから。

目の前の内線にビクリとしてしまった。


「あやしい。」


川島さんの言葉は聞こえないフリして通話を押した。


「はい、秘書課斉藤です。」

「どう?仕事は終わりそう?」

「はい。」

「俺も30分ぐらいでキリが良いから。それぐらいに部屋に来て。」

「はい、わかりました。」

「楽しみにしてる。」


取締役の内線が切れた。

ふと前を向くと視線が合う。


「榛名取締役?」

「はい。後で資料をお持ちします。」

「そうなんだ。」


川島さんが怪しんでる。

心の中は読まれない。


「はい。渡したら帰ります。」


残りの仕事を終わらせ、怪しまれないように資料を手に取り取締役室に向かった。